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腐臭の天使 グルビー・ティベリん襲来、の巻

「ふん、妾に口答えしようなどと1000年早かったようだな」
アルはオレを魔術でふっとばすと、
「妾はおやつを買いに行って来る」と言って意気揚々と出て行った。
ちくしょう、大事に取っておいた最後のプリンだったのに・・・賞味期限切れてたけど。
「てけり・り」
ダンセイニが触手を伸ばしてぽん、と肩に手を置いた。
「慰めてくれるのか?お前はやっぱりいい奴だなあ。今度収入が入ったらインスタントコーヒーの粉を存分に混ぜて綺麗なコーヒーゼ・・・おほん。綺麗なコーヒー色にしてやるからな」
「てけり・り」
腹が減っているとろくな事を考えないらしい。
と、そのとき開いていた窓から一陣の風が吹き込み、黒い何かかが部屋の何かに踊りこんだ。
「なっ・・・ハエっ?!」
見ればそれは耳障りな羽音をたてて何かを形作ろうとしている。
「う、うちの台所にゃ生ごみすらないぞ!キャベツの芯もしっかりおいしく頂くからなっ!なのになんでハエが・・・」
何かを形どったハエの群れは、まばゆい閃光と爆煙を放った。
おもわず俺は咳き込む。
「げほっ、ごほっ、一体何だってんだ・・・・・・ハイ?」
煙が晴れて部屋の様子が一望できるようになると、目の前に視覚野が拒絶して勝手にモザイクが入って見える見覚えのある緑色の仮面。
「腐臭の天使、グルビー・ティベリん参上〜」
「お引き取りください」きっかり0.2秒

「まあ!あの貧乳古本娘にまたいたぶられたようねッ!でもこのアタシが来たからにはもう大丈夫ッ!」
やたらとフリルのついた原彩色のカクテルドレス(に似た異様な衣装)に身を包んだほとんどモザイクで検閲されたオカマは、ジョジョ立ちともまんとう立ちとも若干異なるような決めポーズを取ってこちらをビシッ!と指差した。
「いや、何も大丈夫じゃないからとりあえず税金は滞納してるけどあんたには関係ないしむしろ理由はどうでもいいから帰って欲し」
「冷蔵庫の奥の脱臭剤の裏に隠しておいた秘蔵のプッ○ンプリン(冷蔵庫内で賞味期限を12日過ぎている)を貧乳古本娘に奪われたのねッ!いいわアタシが仕返ししてあげましょう」
「お前も人の話を聞けェっ!てゆーかなんでそこまで知ってんだ!最初ッから一部始終見てたろこの変態オカマ覗き魔!」
人の話を聞くそぶりも見せず、腐臭を放つモザイクオカマは勝手に話を続ける。
「さて、これが問題の冷蔵庫ねッ!ではここに賞味期限を常温で24日過ぎてなんだかステキな感じになってる○ッチンプ○ンを用意して、と」
オレは悟った。止めても無駄だと。とりあえず一部始終傍観して穏便に立ち去ってくれるのを待ち、しかる後ライカさんの教会から消毒液と消臭剤をかっぱらって来て部屋を大清掃するしかない、と鼻をつまみながら今後の対策を練る。
「おもむろにふたを開けます」
「開けるなァっ!」
傍観するつもりが思わず突っ込んでしまった。叫んだ拍子にヤバい甘ったるい香りが鼻をつく。
「ではこれにィ〜魔法の呪文をかけるとあら不思議〜」
いかん、ここで気を失ったらあの変態オカマに何されっか判らない。オレは辛うじて意識をつなぎとめた。
「ふんぐるい ふんぐるい ふんぐるなむ〜」
「やばそうな呪文唱えるんじゃねーっ!」
「お気に召さなかったかしら?」 「怪しいモノ呼ぶなっ!」
「仕方ないわねえ〜。じゃあ別のにしましょ別のに。  蛆虫ちゃん蛆虫ちゃん寄ってらっしゃい見てらっしゃい。けっこう毛深い猫肺だらけ、隣のガキはイアイア煩いな、っと」
どう聞いても即興で考えたとしか思えない呪文を唱え、変態オカマはプラスティックの容器を高々と掲げた。
「・・・で、何が起きるんだ?」
「・・・おもむろにふたを閉じて冷蔵庫の奥底にしまいます」
「閉じるのかよッ!しかも怪しいモンを人ん家の冷蔵庫に入れるなっ!」
素手で触りたくないので手近なハリセンでおもっきりすっぱたく。
べちょり、と床に不快な何かが落ちた。
「嫌ぁねぇ。お化粧が取れちゃうじゃな〜い」
思わず顔が引きつった。
「九郎〜っ今帰ったぞ〜」
玄関のドアを開ける前からアルの声が聞こえる。
「ふふふ。それじゃあ貧乳古本娘にヨロシクネっ」
おそらく自分でかわいいのだと思っている不気味なポーズをとり、腐臭オカマはハエの群れに戻ってあっという間に消え去った。残るは腐臭と床に落ちた蛆虫、そして冷蔵庫の中の核爆弾級に危ないと思われるプリン。
「九郎!妾が帰ったと言うのになぜ玄関まで出迎えん!せっかく妾が悪かったと思ってプリンを買ってきたというの・・・臭っ!」
そこまで喋ってアルはようやく部屋の異常に気づいた。
「な、何事か!汝、もしやまだ何か隠しておいたな!一度ならず二度までも妾に隠し事をするとはァアアア!」
鼻をつまみながら台所に駆け寄り、冷蔵庫のドアをがちゃりと開ける。
「ぬむむ!よもやもう一つプリンを隠してあったとは!」
ざっ、と取り出しにらむように観察する。
「しかも一度開けた形跡がある!謎はとべてすけたぞ!九郎、自分だけで食べようとして妾が帰ってきたのに気づいて隠したのであろう!いや、隠したつもりだったのだな」
「いや、それは話すとちっとばかし長くなるんだが開けないほうが」
「ふん、そうやって妾を謀ろうとしても無駄無駄無駄ァ!汝の秘蔵プリン、妾が食してやろう。ほれ、汝には今しがた買ってきた3個入り88円の特売プリン(のうち一個)をやるが故一緒に食べようではないか。うむ、妾は優しいな」
嬉しそうにスプーンを二人分用意し、テーブルに着くアル。
「いや、それは止めとけ。マジで腐ってるからていうかもっとヤバい」
「何だぁ?まだそのような口をきくか汝は。さっきは確かに妾が悪かった。だから一緒に食べようと思って買ってきたのではないか。仕方のない奴だな九郎は。汝にはもう一つやろう。これで良いであろう?」
ここで無理やりあやしいプリンをぶん取ると確実にアルは切れる。なんとか穏便に済ませられないものか。だがアレを開けるとすんごくヤバイ気がする。
「大体古い方を妾が処分してやると言っておるに、なんの文句があろうか。いやない。よし、ではいっただっきまー」
そう言ってふたを勢い良く開けたアルの顔が強張るのに0.3秒。
オカマのかけた魔法によって仕込まれたトラップが発動し、プリンから蛆虫が大量に飛び出して部屋を埋め尽くした。

「・・・・・・・こ、ここここここここのこのこのこの大うつけがーーっ!」
爆風で蛆虫とオレが案の定吹き飛ぶ。もう慣れたもんだな。でもやっぱり痛いです。
オレは悪くない。何にも悪いことしてないじゃないか。やっぱりカミサマなんて居ないんだチクショウ。

アルがシャワーを念入りに浴びている間、オレは部屋の掃除とドア、窓の修理に追われていた。
「今日もツイてないぜ・・・」
今日は、ではないのがポイントだ。
「ちなみにグルビーとは『蛆のわいた』という意味よっ」
砕けたドアからこっそり覗き込むようにして変態オカマが覗き込んでいた。
「おねがいだからもう来ないで下さいっていうかもう我慢ならんイタクァ!クトゥグァ!やっちまぇ!」
「あーれーっ!」

・・・やっぱり大家からこっぴどく怒られました。


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